2008.5.1

2008 SLOW TRIP Vol.012 「 蔦温泉 : 旅の宿 」

2008年 SLOW TRIP 母姉妹と春の東北旅行編 #09

2008年4月17日(木曜日)

美しい奥入瀬渓流沿いを走り八甲田山への上りの連続するタイトコーナー

実に攻めたくなる峠だけれど過去に蔵王の峠で

ふたりを乗せているときに加代ちゃんを吐かせてしまった前例があるので

僕とアルファロメオは我慢した

ほどなくして今夜の宿 蔦温泉旅館に到着した

1174年にすでにこの地に湯治小屋があったとされ1909年(明治42年)現在の旅館へ形態を変えたという

僕らが泊まる部屋は1918年(大正7年)築の本館の一室

昭和42年の加山雄三さん主演の映画の撮影に使われたらしい

とっても立派な部屋だった

僕は見たい場所があった

仲井さんと話しどの部屋かを聞いた。

それは本館から昭和35年に増築された約60段ほどの階段の上にある別館の一室

冬期間は使用していないにもかかわらず快く

「どうぞ見ていらしてください」

見事に「昭和」が生きていた

「この部屋かぁ」

懐かしさは

居心地の良さ

そろそろお風呂に行く時間だ

年季の入った足に優しい廊下を歩いて

部屋へ戻るとふたりはすっかりくつろいでいた

仲井さんが「どうでしたか?」と聞くので

感想を述べると、どうやら部屋を間違えてしまったようだ

もう一度行こう

別館も素晴らしいよ、と加代ちゃんに伝えると

興味がわいたようでついてくることになった

68号室


Photo by  KAYOKO MIYASHITA

ここだ

作詞家 岡本おさみ氏が昭和44年新婚時に訪れ詩を書いた部屋だ。


そして昭和47年、吉田拓郎さんは「旅の宿」という曲に仕上げた

浴衣の君は 尾花の簪 熱燗徳利の首 つまんで もういっぱいいかがなんて 妙に色っぽいね


静まり返った部屋で妙に感慨深く部屋を見つめてしまった


Photo by  KAYOKO MIYASHITA

僕も何か書けるかな

部屋へ戻った

僕がお風呂から帰って間もなく夕食の準備が整った

素晴らしい! ホタテの春巻き美味いなぁ!

食べすぎると物忘れをするという俗説があるミョウガを

最近少し物忘れが目立つ母に今夜もあげてしまったのが気がかりだ

あっ! 加代ちゃんもミョウガあげてる!

山菜を中心としたメニューに魚や鶏肉料理も並び満足

ちょっと奮発して十和田牛のステーキをミディアムレアで別オーダー

これは美味すぎた! やられた!

山奥の宿でこんな素晴らしい食事をいただけるなんてとても贅沢な気持ちでいっぱいさ

母と加代ちゃんがお風呂に行っている間

朧月夜をぼんやり眺めていた

カマドウマの幼虫が壁を這っていたけど放っておいた

そしたら今度は僕の枕元近くへ来たので外へ出してあげた

外はまだ寒すぎたかな

アンティークに似合わず無線LANが届いていたのには笑った

早い時間から隣の部屋からイビキが聞こえた

そうだ暗くなったら寝よう

そして明るくなったらすぐに起きよう



2008年4月18日(金曜日)

オハヨー!

ここの宿の温泉がまた素晴らしいんだ

年季の入った桧風呂はずっと浸かっていたいほどだった

朝食へ向う途中の大部屋の障子が粋で目に留まった

窓の外には雪があんなに積み重なってた

豪雪地帯なので電話で路面の状況をしっかり確認して来たんだよ

なんとも粋な本館のトイレ、昔は便器の下に小川が流れている天然水洗トイレだったとのこと

そのころ来てみたかった!(笑)

旅立ちの前に母も別館の雰囲気を味わってみたいと言い出した

時が止められたかのような昭和の趣の中で

壁時計の振り子が左右に揺れているのを見て

この空間が生き続けているのだという事実を知る


人はとかく破壊する象徴として挙げられるが

人が手入れを続ければ長生きするものもあると知った

それがたとえ人が作り出したものだとしても

長い年月の末、命に近いものが生まれるのも感じた

蔦温泉旅館、間違いなく最高の宿だった

また来ます、

 

旅を続けよう

KENICHI KIKUCHI "2008 SLOW TRIP Vol.012"