2008.1.7

2008 SLOW TRIP Vol.001 「 鶴居村 : サルルンカムイ (湿原の神) 」


2008.1.1 元旦

12月31日に故郷釧路に帰った。

友が大勢集まって恒例の僕の実家での年越しが行われた

事前に新潟の酒屋から取り寄せた特選 越乃寒梅のスッキリ辛口で気持ちよく酔った

昔からうちの母の料理は大評判とは言え

それにしても友たちの顔はいい顔してた

年々良くなってゆく。

全員酔ったので昔のようにクルマを走らせて初日の出を見には行かなかった。

3時頃タクシーで帰った JJ は

「6時に写真撮りに行くぞ〜」

「タンチョウのはく息が白いところ撮るには早朝じゃないとダメなんだよ!」

と息巻いていたけれど

実際に来たのは昼過ぎだった

それもいつものことだ

釧路から30分ほどクルマを走らせたら鶴居村の鶴見台がある

ここはタンチョウの二大給餌場のひとつだ

この時期にくれば必ず会える

なんだかもうすでにうす暗くなってきた。

釧路は日が昇るのが早くて沈むのも早い。

沖縄の全く逆だ。

北海道の先住民族であるアイヌの民は

サルルンカムイ (湿原の神)と呼んだと言う。

学名 : Grus japonensis 英語名 : Japanese crane

まるで朱鷺の学名 Nipponia nippon のように日本を代表する名だと言うのに

乱獲の末明治には絶滅したと思われていた丹頂鶴。

釧路湿原で1924年に僅か十数羽の生存が確認されて以来

地元農家の給餌の成功と努力で現在1000羽ほどまで増えたと聞く

昔からクルマを走らせるとよく見かけた鶴なのでなんとも思わなかったけれど

ほぼこのあたりでしか見られない珍しい鶴なんだなとあらためて思った。

高らかに声をあげながらの求愛ダンスを見るのはなんとも飽きない

それは、タンチョウの夫婦は人間のように離婚はないので

愛の証としてのダンス

なんとも素敵じゃないかい

元気なここの給餌人 渡部トメさん

観光客がフラッシュをたくと鶴が驚いて

先日も電線にぶつかってしまったと嘆く

いちいちカメラを持った観光客に説明してくれる。

給餌よりも大変だなと思った。

みんなツルの気持ちになるとわかることなのに

みんなトメさんの気持ちになるとわかることなのに

羽ばたいているときの姿は特に神々しい

給餌場でタンチョウに会えるのは当然かつ不自然

それに観光客だらけの中でタンチョウを見るのはちょいとやかましい。

陽も沈みかけた頃僕らはタンチョウのねぐらへ戻る時刻とポイントを聞きつけて

静かに待つことにした

そこへ向かう途中の畑でタンチョウの家族がいた

子供たちのカラダはもう立派な大人だけれど

首から上がまだ赤ちゃんのように茶色い

中学生と言ったところかな

このあたりかな

鶴たちは川の中に立って眠るんだって

その方が雪に覆われた大地の上で寝るより温かく天敵にも襲われず安全なんだって、と

ゆりちゃんが教えてくれた

鶴居へ向かう途中、母の弟の"春おじちゃん"の家へお土産を置きによった。

そうしたらいとこのゆりちゃんがいたので誘ったらうれしそうに付いてきた。

昔はシャイでひと言も話すコじゃなかったけど

多少社会に揉まれた今、僕にはよく話しかけてくれるようになった。

兄弟のいない僕には突然妹ができたようでうれしいんだ。


じっくりと僕ら4人は空を見つめ鶴の帰りを静かに待った

静かに待った、、と思ったら JJは道路の真ん中で今日もローショット

Photo by  JJ

いいねぇ〜JJ とってもいいよ

おっ! 来た来た!

彼らはバサバサと下品な音を立てず

その大きなカラダを無音で上空を通り過ぎる。

じっくり空を見ていなければすぐに通り過ぎてしまう。

もうあたりは暗くて頭の赤い色がはっきり見えないけれど

やっぱり美しい鳥だなぁ

家族で行動しているのかな?

決まって団体で移動している。

4時10分、刻々と闇が迫る中次から次に

釧路湿原を走る川の奥の塒へ飛んでいった

んっ? 誰かいるぞ

美声のシルエット

林のずっと向こう、先ほどの給餌場のあたりが静かになって

最後の湿原の神が飛んできた

タンチョウとクロスするように

猛禽が沈みゆく太陽へ向かって融けていった

西の山へついに太陽が沈んだ

僕がポツリと

「どうして釧路はこんなにも夕陽が綺麗なんだろう」ってもらすと

ゆりちゃんが

「だって釧路は世界三大夕日が美しい街のひとつだもん」って。

僕が驚いて「世界三大!?」って声を上げると

JJは

「そうだよ」って

あたかも知っていたかのように答えた。

誰が言い出したか世界三大。

確かに調べると"世界三大夕日"「バリ島」「マニラ」「釧路」、。

Photo by  SHIZUKA


真相はどうであれ

奇跡みたいに美しいのである。

母親の胎内のように赤く染まるのである。

僕とJJは ハンディレコーダーでそれを実況していた

故郷のそれを、。

 

 

2008 SLOW TRIP Vol.001 「 鶴居村 : サルルンカムイ (湿原の神) 」(完)



KENICHI KIKUCHI "2008 SLOW TRIP Vol.001"