storia #16 「リバイバル」

その噂は次期スカイライン、R32型スカイラインに
GT-Rの称号を与えたモデルが復活すると言う噂。

当時書店には噂の新型車系の雑誌が並び始め
偽装されたR32 GT-Rが北海道のテストコースで盗撮されたりしていた。

そして噂は現実のものとなった!

16年振りのGT-Rの復活だ

速さのためだけに徹底的に作り込まれたGT-R
当時のバブル経済の成せた技であったと今思う。

そして登場後はご存知の通り数々のレースを圧巻した。

当時盛り上がっていたグループAでは無敵のフォード・シエラ勢に対し
デビュー戦から1・2フィニッシュ

圧倒的な速さだ!

後に各社から発売された280psの強烈な車たちも
GT-Rの前には全く歯が立たなかった。

 

車好きには車が集まってくるのだろうか?
当時の車スポーティーな車はほとんど運転する機会を得た
ホンダ NSX(1990)、シビックSi、CR-X
日産 フェアレディZ(Z32)、シルビア(S13)、パルサーGTI-R(1990)
マツダ RX-7(FC3S、FD3S) 、ユーノス・コスモ(1990)
トヨタ レビン(AE86、AE92)、スープラ(A70)、ソアラ(Z10、Z20)
三菱 GTO(1990) . . .

当時興味のある車は手当たり次第試した。
けど熱くさせる車は少なかったな。
(NSXとFD3Sはコーナリングが楽しい良い車だった!)


それにしても僕の車が出来上がらない。
連絡するとメカニックたちは燃調に苦しんでいる様子だった。

そりゃそうだ
同じ型をしているからといって簡単に心臓を乗せ換えられるはずがない。

それでも僕は休みをもらう度に心配で

代車のおんぼろミニカで帯広まで走らせてはGTSを見守った

KENICHI KIKUCHI "la mia Gran Turismo #16"

story #17 「リ・ボーン」

それはある夜突然に訪れた

「完成しましたよ!」

僕のGTSがついに生まれ変わった。

これから帯広から釧路まで納車に来てくれると言う。

そしてそれは恐ろしいほどのタイムでやってきた。

「本当に帯広から来たのだろうか、。」

仕上がった車の扱いの説明を受け代車のミニカと交換した。

初走行だ。

アクセルを踏み込む。

ホイールスピン!

タイヤがグリップした瞬間、リアが沈み身体がシートバックに強く押し付けられる

速い!

体感速度が半端じゃなかった !

即ちトータルバランスがあきらかに崩れていた。

パワーをサスペンションが支えきれていない。
ブレーキが弱い。止まらない。

しかしこの暴力的な加速に酔った。

今思えば240psそこそこのパワーだったのだろうけれど
大満足だった。

明くる晩も明くる晩も友のRSターボと峠道を走った。

気づいたら車の中で目覚めることなどいつもの事だった。
そのまま職場へ行くのさ。
幸い熱い珈琲はいくらでも飲めたからね。

ある土曜の夜ゼロヨン会場で
なんてことはないトヨタのツインターボに敗北した。

エンジンパワーがドライブレーンにつながらない。

クラッチが滑ってしまったのだ。

あたりまえのことだ。

クラッチ、サスペンション、ブレーキ、
目先のパワーよりも大事な部分が劣っていたのだもの。
順番があべこべだ

要するににいろいろ書いてきたけれど
車に対してまだ理解していなかったことが多かったのだろう

車と対話すると言う意味もまだわからなかったのだろう

KENICHI KIKUCHI "la mia Gran Turismo #17"

storia #18 「ファースト・コンタクト」

ついにその時が訪れた!

BNR32型 GT-R のハンドルを握るチャンスが!

職場の喫茶店でウエイトレスをしてた女の子の彼所有のGT-R
こっそり運転させてくれると言うのだ。
ラッキー! (ごめんねあのときの彼氏さん)

休憩時間、壊しても弁償出来ないので僕らは広い港へ移動した。

タイトなR32のコクピットにおさまるだけで
胸がドキドキと高鳴った。


アクセルを踏み込む、

速い!? 速すぎる!

ツインカムノイズをはきながらレスポンスの良いRB26DETTが本領を発揮した!

シートバックに身体は叩き付けられない
だけれどスピードメーターは一気に跳ね上がる

後輪の空転はスタートの一瞬で4駆にトルク配分が変わり
GT-Rの室内が平和に高速移動する感覚

アクセルもブースターのおかげで重すぎない
遊びの無いハンドリングが軽快
そしてシフト・フィーリングも最高

すべてが高レベル。

下手な車に金をかけてチューニングしても追いつけない
技術の結晶があった!

ハコスカGT-Rのスパルタンな操作イメージは無い
誰でも扱える車だった。

笑ってしまう。

笑ってしまうしかなかった。

エキゾーストマフラーを変えただけの車両だったけれど
300psは軽く超えていたであろうか。
その加速の中においても一切の不安を感じなかった。

GT-Rを降りてカモメの声を聞きながら
僕はしばらくボーッとしてしまった。



ほどなくして長く愛されてきた喫茶店が店を閉じることになった。

あきらかに釧路の駅前を歩く若者が減った。
北大通をずっと見渡せたガラス張りの店にいると良くわかった。

はじめは気のせいかと思ったけれど
あんなに活気だっていた駅前の北大通りが空っぽになったんだ。

第二次ベビー・ブーム最後の世代の僕らが卒業と同時に雪迎えのように各地へ散ったのと
郊外に大型店舗が出来つつあったのが原因であろう。

母体の会社は、ある有名な外食チェーンのフランチャイズ店を10店舗ばかりもっていたので
社長にそっちへ移動して欲しいと打診されたけれど断った。

決められたレシピで決められた笑顔で毎日チキンばかり揚げるのは自信が無かったから。
(あっ!ばれた)

ちょうど同じビルに入っていた会社に同級生の女の子が働いていて
来てくれと頼まれていた。

給料も倍になれば、いろいろ車もいじれるだろうか、。



流れに身を任せ僕はつまらんサラリーマンになった

KENICHI KIKUCHI "la mia Gran Turismo #18"

storia #19 「バランス」

storia #19

スーツも金も持っていない僕はある日サラリーマンになった。
困った支店長は僕におさがりのスーツを何着かくれた。
そいつを着て初出社した。

喫茶店と同じビルの職場だから新鮮味はない
そしてなんだかさみしい気持ちになった。
僕らが努力すればもっと店は続けられたのではないか? と
今でもふとした瞬間に考えてしまう。

いつもの常連さんがつぶれた喫茶店の前で驚いている。
僕は頭を下げて「ごめんなさい」と言う。
こんなシーンが何回もあったからなおさらだ。

なんとも着心地の悪いスーツに身を包み事務的な仕事をこなす。
すべてが初めてだらけだけれど与えられた仕事はどん欲にこなした。
うんうん、想像よりもいい給料だ。

即、クラッチが滑って乗れなくなったGTSに
ツインプレートの強化クラッチを入れた。
足回りにビルシュタインをセットし
効きのいいエンドレスのブレーキパッド。
排気効率を高めるためにマフラーには柿本改の100パイをセットした。

甦った。
重たいクラッチに固い足回り。
手を入れるほどに誰にでも乗れる車じゃなくなっていったけれど
イイ感じに仕上がった。

週末になると誰も来ない峠道や、クローズドでドリフト走行の練習をした。
ビデオカメラをセットして走りを録画して研究した。

あのでかい車体のHR31型スカイラインでだ。

 

KENICHI KIKUCHI "la mia Gran Turismo #19"

storia #20 「シープ?」

あのハコスカGT-Rを覚えているでしょうか?

僕がエンジンをかけたGT-Rを。

その車庫に収まっていたもう一台のスカイライン。

HR30型 6代目スカイラインの4ドア、2000GT-E

限定車のポールニューマン・バージョンであるけれど見た目ノーマル。

どうせ古くなったL型の2000ccターボエンジンが収まっているのであろうボンネット。



ある日曜日、その豪邸と車の所有者である(デパートの中の喫茶店)店長に助っ人を頼まれた。

僕は自慢じゃないがデザート作りのプロだ。

パフェを作らせたら美しい出来のを次々と量産できる。

僕がいた喫茶店はとにかく忙しい店だったから

多分、右に出るのは高校バイト時代に僕にみっちり仕込んでくれた「タクさん」だけであろう。

何度か手伝ったことがあったのでその店のデザート作りもすぐに慣れた。


ランチ時もすぎた休憩時間、

「KENちゃん、そこの駐車場に停めてあるから乗っておいでよ」


店長、キーを渡してくれた。

あの白いHR30のキーだ。

ちょうど港あたりで一息つきたかったので借りることにした。




4ドアのスカイラインに乗り込む。

「なんだこの石みたいに固いクラッチは??」

よく見ると室内が尋常じゃない、。

排気温度計、追加ブースト計?

おそるおそるアクセルを踏み込む。

!!!!!

未経験の加速だ!

この室内のツマミは追加インジェクターの調整の為のものか?

シガーライターソケット部分にはVVCか?

「別世界だ!」

このトルクは2000ccじゃない、

でかいタービンを装着しているのだろうターボの衝撃もまともじゃない


長らく支えられてきたL型エンジンの熟成されたチューニングカーであったのだ

そしてアールズのブレーキホースと強化ブレーキパッドは強烈なストッピングパワーで制止する

まさに「羊の皮を被った狼」とはこのことだ。

大抵のスポーツカーはこのセダンに追いつくことさえ出来ないであろう。

はじめて400psオーバーの車に乗った瞬間であった。

L28改(エルニッパチカイ)ってやつに。

しかし店長も人がわるい。

多少なりとも経験が無ければ廃車にして返すところですよ

でも皆から運転は信用されていたな

よく運転を代わってと言われた。



そうそう、サーキット走ってたドライバーに「速い」と言われこともあったっけ。



ただ自分では「怖い領域」をしっかりと理解していただけだったのだけれど


KENICHI KIKUCHI "la mia Gran Turismo #20"